【ライブレポート】秋山黄色、リスナー一人ひとりへ投げかけた感謝の気持ち あたたかい光で会場照らした中野サンプラザ公演

2022.10.21

リアルサウンド

https://realsound.jp/2022/10/post-1158899.html

 秋山黄色が、自身最大規模となるホールワンマンツアー『一鬼一遊TOUR Lv.4』東京・中野サンプラザホール公演を10月13日に行った。「天気微妙だから気をつけてね」と秋山も公演前日にTwitterで気にかけていたが、開演前の中野にはしんしんと雨が降っていた。

 〈シャッターチャンス/4 3 2 1〉ーーカウントダウンにいざなわれるように、ライブは「シャッターチャンス」で勢いよく幕を開けた。一曲目から秋山はステージを右へ左へ、観客と目を合わせるように歌う。「『一鬼一遊』へようこそ!」の声かけに、フロアの揺れが強まり、ボルテージが一段階上がったのを感じた。

 「Bottoms call」に続く三曲目は「やさぐれカイドー」。以前は前のめりに、タイトル通り“やさぐれ”の感情をぶつけるように演奏されるイメージだったが、この日は客席のクラップと一体となり、安定と爆発が同居するようで心を掴まれた。この時点ですでに、秋山がより表現力を高めていることに気づかされる。

 演奏後の静寂の中、秋山はゆっくりと水を飲んだ後、本ツアーについて「今回は解放されて自由な気持ちでライブをしているので、伝わるんじゃないかと思いますけども。みなさんの見る心構えとして、結構1人や遠くから来てる人も意外といるみたいですが、全くもって気にしないようにしてください」と口を開く。続けて「破壊に破壊を繰り返すようなライブをして、常識が変わるくらいの体験をしてくれたらいいなと思っておりますので、気合いいれて聴くように」と声をかけ、会場も拍手で応えていた。

 「毎度言うことなんですけど、世の中で一番くだらないものって人の目なので。人の目を気にしたやつから、ぶっとばしてやります!」ーーそう叫び始まったのは「クラッカー・シャドー」。フロアも自分たちを解放し、秋山の想いが伝わっていく。「聴き覚えがないよね? でも聴いたことある体で行くよ」と、新曲「年始のTwilight」も特別に披露された。

 秋山が「非常にプレミアムなことですが、今から転換したいと思います」と告げると、会場の照明が明るくなった。すると秋山は「うわ、すげえ!」と前髪をかきわけて客席を見つめ、「皆さんこんばんはー!」と嬉しそうに声をかけた。その後、中野サンプラザが来年閉館することに触れ、「デビューしてすぐくらいのときに、マネージャーさんと中野駅前を通って、『あれが中野サンプラザだよ』みたいな、バスガイドみたいなことされて」とエピソードを披露。スタッフとの二人三脚の道のりを想い、こちらまで胸が熱くなった。

 そして「ささやかですが、アコースティックセットでやってみたいと思うので、ゆったり聴いていてください」と、秋山のアコースティックギター、井手上誠のバンジョー、藤本ひかりのベース、鈴木敬(Bentham)のカホンの編成で披露したのは「夕暮れに映して」。すぐそばで歌ってくれているようなあたたかさが、夕暮れのように会場内にじんわりと広がった。そのままの編成で「エニーワン・ノスタルジー」へ。〈大人と子供の間にいるからだ/ダサい大人になりたくない〉ーーそう感じる世代のリスナーも、この日はたくさん来ていたように思う。彼らがじっと聴き入る様子が印象深かった。

 再び秋山が観客へ語りかける。「本当の意味での“一喜一憂”を、ちゃんとした温度で伝えたり歌ったりするっていうのが、最近の僕のお仕事です。最近皆様のおかげで自覚がわいてきました」としながらも、「ときたま昼間くそ楽しいのに、寝る前に嘘みたいに、今までの人生がまるで全部来世のための行いだと思うときがあります。だから、すがるものがないと、と。活動する上で、スタンスを変えずにやっていきますので。遊ぶように歌いますので。叫ぶようにステップも踏みます」と明かす秋山には信念があり、そんな空気をずっと感じる。

 

 「Drown in Twinkle」「見て呉れ」「PUPA」と3曲が切れ目なく続くと、身体に、心臓に、音が刻まれていくようだった。「サーチライト」では、会場中が手を上げる中、じっと立ち尽くし、タオルで涙をぬぐっている観客がいた。〈光はいつも 人を照らす〉と歌う秋山は、誰かにとっての、そして会場に来ていた観客にとっての光であることを確信する瞬間だった。

 本編最後の一曲を前に、「バスケットボールは上手にできるんですけど、心は思った通りに動かせません。でもなんか、クールにやっていけるような手段があるんじゃないかって思うと、曲作りしている最中に、ハッとやる気が戻ってきます。その手段こそ音楽なんじゃないかって」と気づいたと言い、「(リスナーの)目をさませられたらなと思うことが、最近すごくよくあります。今日来て本当によかったなって思うように歌いますので」と語ると「モノローグ」で本編は幕を閉じた。

  本編終了後も拍手は鳴りやまず、ほどなくしてアコギを弾く秋山を先頭に、『サザエさん』のエンディングのようにバンドメンバーが登場。新曲「SKETCH」がTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』第6期エンディングテーマになったことに触れ、「すごない? まじで。アニオタじゃん俺? 現実味ないんだよね」と興奮がおさまらない様子。曲が採用されたのは「皆さんの応援のおかげ」だと、感謝の思いを込めて歌い上げた。

 アンコール最後の一曲を残し、「結局このライブで一番遊んだのは俺だったねと、なったりしてます。でもみんながいるから、楽しいんです。端から端まで全部に向かって歌いたいと思います。一人ひとりにくっついている耳に、気持ちに、訴えかけていきますので、ちゃんと一対一の状態で聴き、会場として一体になって聴いて、俺がどういう気持ちでやってるかを受け取ってください」と締めくくった秋山。披露した「Caffeine」で、会場中を“中毒”状態に。最後はギターを弾きながら床に倒れ込み、でんぐり返りでステージを去っていく、という秋山らしい形で終演となった。

 秋山を小さなライブハウスで初めて見たのは、もう3年以上前になるだろうか。彼の最大の魅力は、圧倒的才能に裏打ちされたカリスマ性と、「家に籠もって音楽を作っている、たまに口が悪いけど、優しいおにいさん」的なやわらかさの同居であると、以前から感じてきた。この日、歌唱力・演奏力・表現力がさらに進化していることを実感し、それだけでも度肝を抜かれたのだが、この「優しいおにいさん」が近所に引っ越してきたような、リスナーとの距離の近さに、大変驚かされた。というのも、秋山は今回、長めのMCを複数回行ったが、会場の「あなた」を想像して言っているものがとても多かったのである。ツアー完走や『ヒロアカ』テーマソング決定など、ファンに対して、何度も感謝を述べていた。元々彼の優しさは感じていたが、この日は秋山がすぐそばにいるようなあたたかさをもらった。〈悲しみは2つに 喜びは1つに〉ーー秋山は才能に優しさという力も加え、これからさらに多くの人の光になっていくだろう。

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