【コラム】Mr.Children『SOUNDTRACKS』が語りかける“今を生きる”大切さ 誰もが辿る人の一生に触れた、全10曲を聴き解く

 2020.12.5

リアルサウンド

https://realsound.jp/2020/12/post-667699.html


このアルバムについて文章を残せたことを幸せに思います。

Mr.Childrenは私のソウルメイトであり、大切な宝物です。

彼らの音楽なしではできなかった決断が沢山あります。

いつも等身大の自分たちを、歌で届けてくれて、本当にありがとう。

Mr.Childrenが鏡となって、私の「今」を輝かせてもらっています。

これからも宜しくお願いします^^

 生まれて初めて夢中になった音楽がMr.Childrenだった筆者は、「音楽=自分自身に寄り添ってくれるもの」と思っていた。他の多くのリスナーと同じように、人生の節目節目でMr.Childrenからたくさんの勇気をもらった。だが、それは当たり前のことではなかったのだと、その後気づくことになる。


 「Mr.Childrenは世の中に訴えたいことやメッセージを吐き出したいバンドではなくて、聴いてくれる人たちの人生のサウンドトラックになりたいという気持ちが強い」「歌の主人公はあくまでもリスナー」(桜井和寿)ーー通算20枚目となるアルバム『SOUNDTRACKS』の初回盤CDに付属している特典映像にて、メンバーの田原健一も語っていたが、Mr.Childrenは「リスナーへの寄り添いをモットー」とするバンドである。「主人公はリスナー」と聞くと、そこに制作者の感情はないようにも思えるが、Mr.Childrenは等身大の彼ら自身を歌うことで、リスナーに寄り添ってきた。日本を代表するトップアーティストでありながら、今でも私たちリスナーに近い感覚で喜びや不安を表現する彼らだからこそ、等身大を歌うこととリスナーへの寄り添いが同居する。前々作『REFLECTION』では「リスナーの聴きたいものを全部つくろう」と23曲を収録し、前作『重力と呼吸』では「4人」のやりたいことを「4人」だけでやりきり、本作で「リスナーのため」に帰ってくるところがMr.Childrenらしい。

 しかし本作は、『SOUNDTRACKS』=主人公はリスナー、とタイトルに掲げながらも、等身大・自然体のMr.Childrenが強く滲み出ていることに気づく。年を重ね、力を抜いたそのままの彼らが、ここにはいる。また、本作の曲順は「個」としての彼らの想いの推移そのもののようで、奥深い。そこで今回は曲順に沿って各曲をレビューしていく。「時間(過去・今・未来・老・終)」「愛」の2つに着目して読み進めるとわかりやすいかと思う。


ー『重力と呼吸』から『SOUNDTRACKS』へ

01.DANCING SHOES

 〈We were born to be free〉=無様でも自由に踊れ! と叫ぶ一曲。現状を突破したいという想いが渦を巻き、まさに前作『重力と呼吸』での姿を彷彿とさせる一曲で、アルバムは幕を開ける。

02. Brand new planet

 桜井は「Mr.Childrenとして28年やってきて、“目指すところ”みたいなものがなかなか見付けづらくなってる」とした上で、「それでもなお、音楽への憧れを抱えて、新しい可能性を探しに行く。つまり、ロンドンへ旅立つ我々を、我々自身が励まし、讃える歌」と語っている本曲。まさに『重力と呼吸』から『SOUNDTRACKS』に向かう間の一曲である。しかし新たな可能性を模索しながらも〈さようならを告げる詩 この世に捧げながら 絡みつく憂鬱にキスをしよう〉と、「終わり」がちらつき始める。


 ー出会い、歩み、別れ、死を想う

03. turn over?

 〈眠れないボク〉〈機嫌直してよ〉という歌詞から、喧嘩中の、出会って間もない恋人たちが浮かぶ。〈キミ〉への最愛を歌ったポップなナンバーだが、その中でも〈地球は回る 僕らとは無関係で〉と、時が前に進み始めたことを想像させる。

04. 君と重ねたモノローグ

 重ねてきた「過去」を振り返る一曲。「君」は前曲の恋人のようにも、Mr.Childrenと共に歩んできたリスナーのようにも聴こえる。〈僕に翼は無いけれど 今なら自由に飛べるよ〉という歌詞は「and I love you」の〈もう一人きりじゃ飛べない 君が僕を軽くしてるから〉を彷彿とさせ、リスナーがいるからこそ自分たちがあると、伝えてくれたように感じた。〈いつしか僕も歳をとり 手足が動かなくなっても 心はそっと君を抱きしめてる〉と遺書にも似た歌詞が登場し、「老い」と、それでも変わらぬ「愛」を描いている。

05. losstime

 「老い」を意識した流れから続く本曲は、愛する人を亡くし、ひとりになった老婆の物語。子供達は巣立ち、都会で離れて暮らしている。〈みんな いずれ そこに逝くからね 生きたいように 今日を生きるさ〉という歌詞は、メンバー全員が50代となったMr.Childrenの声であり、だからこそ「今」を生きるのだという決意を感じる。そして(記憶の中の)〈愛しい君をぎゅっと 抱きしめる〉と、「愛」で締めくくられる。

06. Documentary film

 生きたいように今日を生きる、そう思っていても〈特別なことは何も〉ない日がある。そう始まる本曲でも〈君の笑顔にあと幾つ逢えるだろう〉と「終わり」を想う。テーブルに落ちる枯れた花びらが「終わり」の象徴として描かれているが、ここで思い出されるのが1996年発売の「花 -Mémento-Mori-」である。Mémento-Moriとは、「死を想え」という意味。〈負けないように 枯れないように 笑って咲く花になろう〉と歌っていた彼らは50代を迎え、まさに「終わり」を想い、それをアルバムの随所に散りばめた。また「花 -Mémento-Mori-」では〈やがてすべてが散り行く運命であっても〉〈手にしたい 愛・愛〉と力強く歌われていたが、本曲では〈君が笑うと 愛おしくて 泣きそうな僕を〉と歌う。愛を手にしたからこそ、その愛から離れる悲しみがあることを感じているのかもしれない。


ー死から生へ、「今」を讃えて生きていく

07. Birthday

 死・終わりを意識する曲が続いた後に向かうのは、Birth=生・始まりの歌。〈僕は僕でしかない〉と、変わらない自分を受け止めながらも〈いつだって It’s my birthday〉、つまりは生まれ変わり続けようと歌う。〈ひとりひとりその命を 讃えながら今日を祝いたい〉と、本曲からも「今」を大切に生きる意志を感じる。

08. others

 君に触れると〈時間(とき)が止まった〉、愛し愛される、〈その一瞬を君は僕に分けてくれた〉ーー本曲の主人公にとって「君」は、「2人だけの幸せな時間」と「愛」という2つの望みを叶えてくれる存在。この2つはまさに「花 -Mémento-Mori-」で歌われてきた、桜井の、そして私たちの根源的な願いなのかもしれない。

09. The song of praise

 〈積み上げて また叩き壊して〉という歌詞は、まさにMr.Childrenの憧れへの挑戦の軌跡のことだと思うが、その段階を終え、〈僕に残されている 未来の可能性や時間があっても 実際 今の僕のままの方が 価値がある気がしてんだよ〉と、未来ではなく「今」を大切に生きようとする姿勢が、本曲にもある。〈違う誰かの夢を通して 自分の夢も輝かせていけるんだ〉というのは、次世代へのあたたかな思いであり、『SOUNDTRACKS』というタイトルに込めた思いとリンクしている。コロナ禍以前に作られた曲ではあるが、讃えあって今を生きて行こうというメッセージは、今の私たちの希望でもあるように思えた。

10. memories

 時は戻ることなく進んでいるのに、memories=記憶だけは昔のまま色褪せず残っていく。時の流れと一緒に、出来事も消え去って行くはずなのに、いまだに〈幕を下ろせない〉、終わったことにできない想いがある。人生に終わりは来るが、記憶の中で人は生き続け、人の想いは永遠に残る。『SOUNDTRACKS』を初めて聴いた時、過去、今、未来をつなぐ交差点に立っているような作品だと感じたが、まさに「記憶」がそれらの架け橋になっているのだということを、本曲が教えてくれる(歌詞カードの最後にとある一文が載せられているが、その意味するところもこれに通ずると思う)。


 本作のテーマは、「愛を手にする」「終わりを想う」、そして「今を生きる」ということではないだろうか。誰もが辿る「人の一生」というものを思わずにはいられない作品だった。「今を生きる」大切さを、Mr.Childrenは私たちに語りかけているのかもしれない。

 最後に、ここまでは楽曲自体にフォーカスして述べてきたが、本作のサウンドはMr.Childrenが今までにやったことがないものだということも強調しておきたい。本作はグラミー賞の受賞経験を持つエンジニア、スティーヴ・フィッツモーリスと、ストリングスアレンジのサイモン・ヘイルを迎えて16チャンネルのテープで録音された。彼らはMr.Childrenと見事に化学反応を起こし、良い意味でバンドの殻を破っていった。

 楽器の響き方は今までと大きく違い、また音数も減った印象で、長年のファンなら一瞬で「いつもと違う」と感じたはずだ。しかしその違和感はすぐ高揚に変わった。ひとつひとつの音の存在感が増しており、すっかり虜になった。Mr.Childrenはまだ終わらない、この先ももっと素敵な未来があるということを確信する一枚であった。

 大好きなアーティストの最後の日というものは、ファンにとって想像したくないものである。桜井は「このアルバムで最後にしたい」と、それほどに最高傑作だという意味で言ったが、確かにここまで「最後」を意識させられた作品は初めてであった。アルバムのたび、自らを更新していくMr.Childrenの“終わり”は、まだまだ先のことであってほしい。ゆっくりでいいから、これからもその笑顔を見せてくれないだろうか。(深海アオミ)

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